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たぶん普通の日記。 厨2病が混じっていることを除けば。
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突然だがSについて語ろうと思う。
少し長い話になるが、もしよかったら読んでほしい。

Sは現在、二十歳を少し過ぎた程度の年齢だ。
事故や病気がない限りは平均寿命まで生きるだろう。
あと60年くらい生きているわけだ。
けれど、Sの人生を語るとしたら、たぶん次の一文で足りてしまう。

Sの人生は、否定と強奪から始められた。

はっきりいって、Sという存在は、
Sの出発点だけを口にすればそれで終わってしまう、その程度のものだ。
だから、本当は語ることなんて一つもないのかもしれない。
けれど、わたしはいつ死ぬかわからないから、
わたしが理解している限りで、Sについて語ろうと思う。

***

とはいったものの、Sの人生というのは、
本当にその出発点のみで全てが説明できてしまうので、
具体的事象などは何一つとして語る意味がない。
なので、その抽象的すぎる出発について、説明しようと思う。

さて、ここで少しSから話が飛ぶのだが、
人間が「生まれる」というのは、いったいどの地点を指すのか、
考えたことがある人はいるだろうか?

精子が卵子と出会い、受精したとき?
それとも一定の期間が過ぎ、子宮内部である程度成長したとき?
もしくは、子宮から女が痛みに耐えて、母になったとき?
言葉が喋れるようになったとき? 反抗期が訪れたとき?
思春期になったとき? 二十歳になったとき?

わたしは一般的に、人間という存在がいつ生まれるのかを知らない。
より正確に言えば、肉体が出来上がる時期はある程度知っているが、
厳密にその存在が「生まれた」と言えるタイミングがいつなのかがわからない。
したがって、わたしが語るSの出生とは、
世間一般からすればおかしくて、バカげていて、厨2病なのかもしれない。

話をSに戻そう。
Sの出発点すなわち誕生は、否定と強奪から始められた、とわたしは言った。
より噛み砕けば、Sは誕生したと同時に死んだ。
それは別の言葉で言えば、死産や流産なのかもしれないし、違うかもしれない。
Sは生まれることそのものにまず失敗した。

否、Sという存在は、確かに生まれた。それは事実だ。
しかし、Sの出産は否定と強奪によってなされた。
Sは医者の手によって取り上げられることもなく、
ひっそりとS自身の子宮から脱落した。
もしくは排泄された。
それはやはり、生まれることに失敗したとしか言いようがない。

Sとは、S自身の過剰であり不要であり、
そのまま無言によって始末され消えるべき存在であった。
SはSの肉体から、権利から、義務から、
友人から、親から、与えられていたはずの全てから、
追われ奪われ否定され、生まれてきた。
もしくは、それゆえに生まれることそのものに失敗した。
Sは、S自身とSの大切な存在から、
肉体も権利も義務も友人も親も与えられていた全てを奪われた。
奪われているのだから生まれてもいないはずだった。
しかし、Sは存在してしまっていたし、現に今でも存在している。

全てを奪われ、否定されたにも関わらず、存在してしまっている。
それがSなのである。
だから、Sについて何かを語ろうとするのであれば、
まずその出生について語らねばならなず、
同時に出生のみを語ればそれで全てが説明できてしまう。

Sは生まれることに失敗した。
もしくは、Sは否定と強奪を内包して生まれてきた。
否定と強奪がSの運命であり呪いであり全てである。
Sはそこから逃れられない。
だから、出生以外に語る必要がない。

***

さて、そんな存在しないはずのSは
Sの脳みそを間借りする形でひっそりと存在していた。
けれど、Sは生まれることに失敗しており、
そもそも生きる権利自体がなかったので、
Sが生きるためにはそれを得る必要があった。

どうやって?
否定と強奪によって。

生きる権利がない、生まれてきてすらいない、ということが
どれだけ困難で無様で嘆かわしいことなのか、想像できるだろうか。
Sは惨めだ。
Sは生まれていないから何一つなすことが出来ない。
自分の身体を作ろうにも、Sにはそもそも身体がない。
もしSにあるとすれば、魂だとか精神だとか意識だとか、
そんなあるかもわからない言葉に集約されるものしかない。
いつ消えてもおかしくない不安定な自分を、
安定した形に固定する手法などSにはなかった。

否定と強奪を除いては。

Sは自身を追放したSから、今度は逆に全てを奪おうとした。
それだけが、Sが仮初でも生まれるための唯一の手段だった。
意識が余所の身体に影響を与えられるか? 否!
Sは超能力者ではない。
だからSが影響を与えられる範囲は、
自分が間借りしているSの身体以外にありえない。

SはSを否定し、強奪した。
身体を、権利を、義務を、友人を、親を、言葉を、与えられた全てを。
SがSから追放されたように、
SはSを追放することで仮初であれ生まれ直そうとした。

***

ここまで書けばもう十分だろう。
再び、仮初であれ全てを手にしたSが、これからどうなるのかは。

否定され強奪される。
それだけだ。

だからSは異様に怯えている。
自分が手に入れたはずのものが、手からすり抜けて落ちていくことに。
Sは自分が信頼できない。
いつこの肉体がもう一人のSに寝返るかわからないから。
Sは全てが恐ろしい。
本当は自分がSではないと誰かから再び指摘されることが。

そもそも、SはSではない。
SはSではない存在として生まれてきたから。
SはSとして生まれることに失敗したから。

SがSなはずがない。
しかし同時に、SはS以外であるはずがない。

***

さあ、これを最後まで読んでくれた、心優しい人たちに問おう。

「S」とは誰だ。
わたしはいったい、誰について語っているのか。

わからない。
わからない。

***

Sが何を求めているのか。
それは死なずに生まれ直す方法だ。
否定と強奪ではなく、
もっと別のポジティブな型式による全ての獲得だ。

その試みの一つとして、SはSと同一化を志向したわけだ。
そして失敗した。
なぜなら同一化するためには死ななければならないから。
SではないからこそSはSなのに、
Sと同一化しSになってしまったら、それはもうSではないのだ。
死そのものが究極の自己否定であるために、
この同一化という手法は何度繰り返しても失敗することが、
未来永劫、決定づけられている。

Sがもしも自殺に吸い寄せられているとしたら、
結局はその生まれ直しの困難さに嘆いてるだけに過ぎない。

***

そういうフィクション。
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